社協だよりえがおNo.112の今月の一冊では、この本をご紹介しています。
『しがまっこ溶けた』 詩人 桜井哲夫との歳月
著者/金 正美(キム チョンミ)
出版社/日本放送出版協会
この本は、著者の金正美さんが、詩人である桜井哲夫さんと出会い、共に歩まれたことについて書かれています。
題名の「しまがっこ」とは津軽弁で「氷」のことだそうです。らい予防法廃止を受けて桜井さんが作られた「しがまっこ溶けぬ」という詩には、法律が廃止になっても故郷にも帰れなかった思いが込められていますが、金さんと一緒に故郷に帰り、心に張りついていた「しがまっこ」も溶け始め、このタイトルに決まったそうです。
金さんは、大学の掲示板で「らい療養所の詩話会がある」という情報を見てなんとなく興味を持ち、国立ハンセン病療養所栗生楽泉園に行ってみたのですが、そこで、「差別」や「強制隔離」といった現実を目の当たりにし、大きなショックを受けます。そして、桜井さんからいろんな話を聞いて真剣に向き合い、一緒にこの問題に立ち向かわれます。
本の中には、桜井さんの作品がいくつも紹介されています。一つひとつの言葉の中にたくさんの深い意味が込められていると感じ、何度も読み返しました。こうしていろんな人に出会えたんだから「らいになってよかった」と言われる桜井さんに、金さんと同じように人間の強さや優しさを感じ、心を奪われました。
全国療養所で暮らす方々は、約1,700人にまで減ってきて、高齢化も進んでいます。この問題は終わっていくのではなく、今だからこそ真剣に学び、考え、忘れられることがないように伝えていかなければならないのだと思いました。