社協だより「えがお」NO.121に掲載している今月の一冊を紹介します。
『そして、生きる希望へ~貧困に立ち向かう子どもたち~』
著者:阿蘭 ヒサコ(あらん ひさこ)/冨部 志保子(とみべ しほこ)
出版社:NTT出版株式会社
この書籍は、「今子どもたちに何が起きているのか」という現状を多くの人に知ってもらうことを目的に企画され、執筆されたものです。子どもの貧困の問題について、2つの話が収めされています。
「生んでくれてありがとう-貧困のなかで育つ子どもたち」は、父親の家庭内暴力から逃れ、母子家庭になった母子の物語です。母親と弟と暮らすことになった14歳の長女は、経済的に苦しくなった生活を少しでも助けようと仕事で忙しい母親の代わりに家事をすることになります。友だちとも遊びに行くことはなくなり、次第に学校で孤立し、不登校になっていきます。そんな時に、母親が自分を身ごもったことで父親と結婚したことを知り、自分を責め、生きる価値も失いそうになります。母親のすすめで、大学生のボランティアが活動を支える「にじいろ広場」に出会い、おいしい料理を作ったことをきかっけに長女は自分が少しは価値のある人になったように感じます。だんだんと変化が見られ、プロの料理人を目指し、高校進学を決めました。
「シェアライフ-社会的養護からの巣立ち」は、自分の未来が見い出せず、会社を辞めた青年と児童養護施設で育った少年との出会い、交流を描いた物語です。18歳で施設を退所した少年たちは、身近で料理や掃除、ゴミ出しをする様子を見ていないため、仕方がわからず困っていることや、周りに聞いたり相談したりできる人がいないという現実を少年や仲間たちとの交流を通じて青年は知り、自分の未来を見つめなおしていきます。
この2つのストーリーに共通していることは、人生の初期に親との信頼関係が築けなかったとしても、その後の人生で出会った人との交流によって、人との信頼関係を築くことができることです。子どもたちは、深く心に傷を残していますが、その傷は誰かとの安定した絆によって徐々に癒されます。そして、自分はかけがえのない存在であるという自己肯定感を持つことで、自信を取り戻しています。この自己肯定感がベースにあることで、人は自立に向き一歩を踏みだしていけることを感じました。私には関係のない世界で起こっていることではなく、世の中で起こることはどこかで自分とつながっているのだと切に思う1冊でした。