広報紙えがおに、毎月職員が読んだ本を『今月の一冊』として、掲載しています。
1月号に掲載している『九十八歳の妊娠~宅老所よりあい物語~』という本をご紹介します。
著者/下村 恵美子+谷川 俊太郎[詩]
出版社/株式会社 雲母(きらら)書房
著者の下村恵美子さんは、元気な認知症高齢者が病気で薬を処方されて、次第に元気がなくなっている姿に疑問を持ち、宅老所を作ることを決意しました。
目指したのは、施設ではなく、「おばあちゃん家に来たような家」です。
本書は、その宅老所「よりあい」の日常が描かれています。
利用者さんが末期がんでも普通に歌を歌ったり、ご飯を食べたりしてのんびりと過ごしている様子を見た著者は、自分の母親ががんで痛みに苦しみつつ亡くなっていったことを思い出します。「ぼけの方は自分ががんであることを忘れ、心の痛みも身体の痛みも一瞬一瞬忘れてしまう。ぼけというのはそんなに悪くないな、マイナスばかりじゃないなと思えてきました。と書かれていて、認知症をマイナスとしかとらえていなかったことにハッとさせられました。
この本のタイトルでもある「98歳の妊娠」は、6年間よりあいで過ごした大場さんのエピソードからきています。
ある時、大場さんは、「私のおなかに、どうも赤ちゃんがおるごたる」と筆者へ訴えます。筆者は、「どうぞ産んでください。大場さんによく似て、色の白かよか赤ちゃんのできんしゃるでしょうね」と応じます。続いて、「育てるのはあなたに手伝うてもらえんやろうか」という問いに、「はい。お手伝いします。お約束します」と答えると安心して眠りにつかれたそうです。認知症介護の基本の否定しない、受容することの大切さをこの話から学びました。
著者は、ぼけても住み慣れた街で普通に暮らし続けるという考えが少しずつ浸透してきており、それはいつもの生活の音やにおいに囲まれた環境で生活することが社会に認められていているのだといいます。
「ぼけ」や「老い」に対する偏見や誤解を失くし、「ぼけないために」する社会から、「ぼけても安心」な社会を作るために、自分たち一人ひとりにできることについて、考えさせられる一冊でした。